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(以下の文は、やま氏からご許可をいただいた上で、私が段落を再編集した物です。読者に誤読をあたえた場合の責任一切が私に帰属します)
浩平は物語の最後に、かつて願ってやまなかった「永遠の世界」へと旅立ち、そしてそののちに、絆のもう一方を握るヒロインの元への回帰を果たします。物語の論理的構造上から言えば、ラストの部分こそが原点であるという見方が出来ますが、実際にプレイしている限りにおいては、「2重入れ子」の部分こそが現実味を帯びて語られるので、便宜上は物語の最後に「消えた」と表現して構わないように思います。
そしてこの永遠の世界への消失に関しては、様々な意見が出ているようですね。
否定的な意見としては、次のようなものが提示されているようです。
「結局浩平は消えていなくなる最後の瞬間まで、心の奥底では永遠の世界を求めていた」
確かにそう考える事も可能だと思います。
しかしそう考えると、最後の4ヶ月は何のために存在したのでしょうか(最後の4ヶ月とは、浩平が消えていなくなる直前の、ゲーム期間の事を意味します)。そう考えた時、やはり消えていなくなる瞬間の浩平は、既に永遠の世界を求めてはいなかったように思います。
ヒロイン達との絆を深めることができた、浩平の最後の4ヶ月間。それは永遠の世界を否定するための、最終決断の期間だったのではないでしょうか。本当の幸せとは何なのか、本当の幸せとはどこにあるものなのか。その事に気がついたとき、永遠の世界など必要ない事を、浩平は既に知っていたはずです。だから浩平は、自らをこの世界へと繋ぎとめるべく抵抗したように思うのです。
しかし現実には、浩平はラスト間際に永遠の世界へと消えて行きます。ささいな抵抗など無意味なように。強制的かつ絶対的な力によって、永遠の世界は浩平を現実の世界から消し去ってしまいます。
そこにはいったいどんな意味があったのでしょうか。
私は思います。既に求めていないはずの「永遠の世界」へと消えていなくなる浩平が描かれた意味は、自ら(=浩平)の心の投影であるところの「永遠の世界」、そして同様に投影された擬似人格であるところの「みずか」と直接対決し、自ら(=みずか)を説得する事で、自分自身の納得のいく結論を導き出す事、つまり自らの心の内部に生み出した「永遠の世界」を終わらせる事が、大人になるための儀式(試練=心の成長)として要求されたのではないかと考えます。
従って、かつて永遠の世界を願い心の中にそれを生み出してしまった浩平は、必然的に永遠の世界へと行かねばならなかったのだと思います。永遠の世界(自らの心の深奥に潜む、それ以上どこへも行く事の出来ない哀しい世界)へと潜り、自己の弱い心との決着(決別)をつけねばならなかったのだと思います。
故に、永遠の世界へ行かなくて済む方法はあったか?という問いに対する答えは・・・否です。
これに関して、浩平自身の表層意識上で、どれだけの自覚があったのかはわかりません。むしろ正直なところを言えば、意識的な部分では、その事に気がついていない様にも思います。けれども、自分の弱い心に決着をつけるために永遠の世界へと消えたと言う考えは、前向きにこの物語を解釈しようとした場合、ひとつの回答足り得るのではないかと思います。
・・・繰り返しになりますが・・・。
永遠の世界は既に、あの日の浩平の心の中で生み出されていました。
盟約は既に、あの日の浩平の心の中で交わされていました。
そう、それは既にあの日から今に至るまで、浩平の心の中に存在し続けたのです。哀しい現実から逃避し、苦しい過去を忘れる事を願い、本当の幸せとは何かと言う事を見失ってしまったあの日から、浩平の心の中にずっと。「今の浩平」がそれを望んでいるか否かではなく、「今の浩平」を形成する心の一部分として、欠くべからざるものとして、「永遠の世界」は浩平の心の中に存在したのだと思います。
だから浩平は「自らの手」で、「自らの心」で、終わらせなければならなかったのだと思います。
人と人とはお互いに支え合い、助け合って生きて行くことが出来ます。けれど他人の背中をそっと後押しすることは出来ても、前へ進むためのささやかな勇気を分け与えることは出来ても、自分の心の中のことに完全な決着をつけられるのは、自分自身の力だけです。
つまり・・・言いたい事は、浩平は正面から「永遠の世界」を受け止め、終わらせなければならなかったのだと思います。それは「永遠の世界」の存在意義を象徴する擬似人格「みずか」に、浩平にとっての本当の幸せとは何かを伝え、説得し、納得させる事だと思います。ここで重要なのは、「みずか」は「永遠の世界」の住人であり、すなわち彼女もまた「浩平」の心の中の存在であるということです(と私は考えます)。決して神や精霊(あるいは妖精)などの、ある種の神格を表す者ではないと考えます。永遠の世界=妖精の国、みずか=妖精、ただし北欧伝承系の妖精・・・という解釈(tatuya注、これは私の説を意味する)もありますが、それはまた一つの解釈として評価するとして、ここではそうではないと考えておきます。
ここで考えなければならないのは、「みずか」とは何者なのか?ということです(このパートは繰り返しなので、既に書いてしまいましたが・・・)。その姿や、かつて盟約を交わした時の記憶などが象徴するように、幼い頃の「長森の投影」であり、同時にまた、この世界に混在する様々な情報を整理して考えれば、幼くして亡くした最愛の妹、浩平の哀しみの元凶足る存在「みさおの投影」であると言えます。
ではそれらの情報はどこから導き出されるのか?と考えて見た場合、無論それは「浩平自身の記憶と感情」から再構築されたものであって、浩平自身の心が生み出した「長森」にして「みさお」であり、かつ「誰でもない」擬似人格だと思います。
従って最終的な結論を言えば、「みずか」=「浩平自身の心の投影」であり、それは「あの日」、哀しみに押しつぶされた「浩平の心が生み出した影」であると思います。
わかりにくくなるので、以後、「みずか」=「こうへい(平仮名表記)」と書きます。
つまり永遠の世界に依然として囚われている、あの日生み出された、そしてあの日に乖離した「浩平の心の影」である「こうへい」と向かい合い、これを説得する事、すなわち
本当の幸せとは何かを自らに知らしめること、自ら納得する事、自覚すること
=過去を見つめた上で、本当の意味で過去と決別し、自立する事、前向きに生きる事
=自らの心を見つめなおし、全てを清算し、新しい未来を切り開く事
これが永遠の世界の内部において、消えて行った浩平に要求された事なのだと思います。そして始めて「こうへい」と「浩平」は重なり合い、今に生きる「折原浩平」として、現実の世界へと帰って来る事が出来たのだと思います。
これが、永遠の世界へと消え、そして回帰した一連の事件の真相だと思います。
浩平は、自らの心の奥底を見つめなおすために、精神世界へと消え、そしてヒロインとの絆を辿って帰ってきたのだと、そう考えます。
従って、永遠の世界における「みずか」と「浩平」の会話(問答)は、自らの心の奥底を省みた浩平自身の、心の内部における自問自答形式による、哀しみと痛みに満ちた過去との決別(清算)行為であったと考える事も出来ると思います。
こう考えると「Kanon」の舞シナリオも、一見すると他のヒロインのシナリオからは浮いているようでいて、その実、ある意味では最も「ONE」のエッセンスを踏襲していたシナリオだと思えてきます。というか、何となく一番「ONE」に近い構成要素を持つシナリオではないかと、最初にプレイしたときから密かに思っていたのですが・・・。各キャラの立場は入れ替わっていますけどね。浩平=舞、ヒロイン=祐一、そして逆の視点から「ONE」を描くという感じですね。他のシナリオでは、過去をより強く引きずっているのは祐一かもしれませんが、舞シナリオでは、舞の方が祐一よりも過去に縛られていますから(浩平の盟約の様に)。実は最初にクリアしたシナリオが、舞シナリオだったので、当時の「Kanon」の印象は、「マジですげぇ!」「ONEを超えたかも?」だったのですが、一通り終わってみると、他のヒロインのシナリオの性質上から言えば、結果論的には(個人的には)「ONE」の方が上位であったと考えています(総合的な完成度の点では「Kanon」の方が上位ですが、テーマ的に下位評価ということです)。
今の時点では、上記の様に考えていますが、どうでしょうか
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